──去年7月にソロプロジェクト・aillyの活動を発表して、約半年が経ちました。ここまでの手応えはいかがですか? 
 
ailly:思いのほか、aillyの第一歩を楽しみに待ってくれていた方が多くて。私が担当するレギュラー番組「SCHOOL OF LOCK!」(TOKYO FM/JFN)で、初めてデビュー曲「Radiory」の情報解禁をさせていただいてからリリースに至るまで、割と期間を設けていたのもあって。「唐突にソロ活動がスタートした」よりは、丁寧に一歩一歩その全貌が明らかになっていくところを、楽しんでくださった方がいっぱいいて。想像したよりもたくさんの方にaillyが届いていってるな、と感じますね。
 
──現時点で「Radiory」と「噺々」の2曲を発表されていますが、曲を聴いた方々からはどんな声が届いていますか?
 
ailly:「Radiory」は私が重きを置いているラジオについて歌った楽曲で、「アンジー(※アンジェリーナ1/3の愛称)にとって音楽と同じくらいラジオも大事なんだ」と受け取ってくれた人がたくさんいました。「Radiory」のミドルテンポの楽曲から一転して、「噺々」は疾走感のあるロックサウンドなので「aillyは歌モノだけだと思っていたけど、ちゃんとバンドとしてのアプローチもやってくれるんだ」「安心した」という声をいただきました。
 
──バンドサウンドを封印したわけではないんだと。
 
ailly:そうです。みんなの中で“Gacharic Spinのアンジー”という見え方が、定着し始めた状態でaillyをスタートさせて、そこから「Radiory」を出した時は「アンジーがやりたいことって歌モノなんだ」という声が多かった中で、2曲目に「噺々」を出したことで、内にあるスピリットはロックだし、そういうのを自分に落とし込んで、aillyというロックの形に昇華させていくんだ、と伝えられたと思います。
 
──2月18日には、既発曲に新曲4曲を加えた1st EP『ailly』をリリースされます。今作のタイトルをアーティスト名にされたのは、どんな思いがあったのでしょう?
 
ailly:1stEPはアーティストとしてのカラーがつく作品になるので、どんなタイトルにするかすごく悩んだんですけど、EPを出すまでの道のりを改めて振り返った時に思ったんです。すごくaillyと向き合ったよな、って。私もスタッフも本気で向き合ったからこそ、『ailly』と名付けました。これがaillyの表現したい音楽。それを飾らずに伝えるためにも、やっぱりこのタイトル以外にはなかったです。
 
──「飾らない」と言えば、CDジャケットも自然体のaillyが表現されていますね。
 
ailly:aillyのロゴ、アートワーク、アーティスト写真も担当してくれている、アートディレクターの大川直也さんにEPのデザインをお願いしました。大川さんは「Radiory」のジャケットや最初のアー写作成の時も、親身に寄り添ってくれたんですよね。「これまでは“アンジーというキャラクター”として世の中に発信してきた。だけど、ソロではキャラクターじゃなくて、ちゃんと1人の人間として音楽を届けていきたいです」と、大川さんに最初の頃から話していて。今回ジャケットを作っていただくにあたって、大川さんに「一番大切にしてる空間ってどこ?」と聞かれて「家かもしれないです」と答えたんですよね。
 
──それはどうして?
 
ailly:玄関を開けたらアンジーにならなきゃいけない、という意識で活動してきたのもあって、家の中だけが素の自分でいられる場所なんです。aillyは自分の本名・愛理という人間性を発信するプロジェクトでもあるから、それを表すためにも「aillyの部屋を表すような写真にしよう」と決まりました。私が今まで通ってきたルーツが見えるような飾りつけとか、大事にしてるモノを部屋に置いて「何のしがらみもなく、ただただ自分が思い描いた言葉やメロディを紡いでる一枚絵にしよう」と、このジャケットになりました。よく見ていただくと、私の大好きな岡本太郎さん、楳図かずおさんのグッズが置いてあるんです。この写真はアンジーでもあり、aillyでもあり、愛理でもある。自分がゼロに戻れる場所から一を生み出すイメージで作っていただきました。
 
──つまりソロプロジェクトは、「ありのままの自分を表出する」ということですね。人って最初はみんな裸で、そこから服を着て、どんどん自分をカスタマイズしていく。逆に、服を着てから裸になるのって、すごく勇気や覚悟がいる気がして。
 
ailly:そうですね。私はアンジェリーナ1/3でもあり、愛理という人間でもある。その中心にラジオと音楽があることを「Radiory」で表現しきれたからこそ、裸になる覚悟を決められました。そして「噺々」は強いフレーズが多くて、自分が好きなものを織り交ぜた世界観と歌詞になっているので、この曲のおかげで助走をつけられた。「Radiory」と「噺々」で自分を表現できたから「ここからは何を言われても、私がやりたいことだけやればいい」という気持ちになれたんです。今言ってくださったように、羽織を脱ぐ瞬間って覚悟が必要だけど、それが自分の中で自然にフィットした。落語で言うなら「枕を終えて、ここから本題に入ります」みたいな気持ちの切り替えが、このEPでできましたね。
 
──アンジェリーナ1/3という「キャラクターとしての自分」、aillyという「自然体の自分」のスイッチが2つ生まれたことで、心境の変化はありましたか?
 
ailly:ようやく、どちらも楽しくなった感覚があります。それまでは生みの苦しみが強くて、歌詞を書くにしても、どこか「求められてる歌を書かなきゃいけない」という気持ちがあったんです。それこそGacharic Spinでは、6人のバランスを考えなければいけない。5人のメンバーが考えてくれる“アンジーの見え方”もあるだろうし、私は求められてることを最大限表現する役割に徹してきた。一方、aillyは自分がやりたいことだけをやっていく。どちらも本気で向き合ったからこそ「自分がやりたいこと」「自分が求められている表現」が明確に分かれたんですよね。どっちのメーターも振り切れるようになったから、アンジーとしてもaillyとしても、本当の言葉が紡げるようになったし、歌えるようになった。その変化はめちゃくちゃ感じます。
 
──今回リリースされる『ailly』は、まさにaillyとは何者で、何を表現したいのかが可視化された1枚に思います。
 
ailly:本当にそう! アンジーとして歌ってきたこととは、全く違うレンジで歌っていて。もしかしたら、今まで好きでいてくれた人たちが離れていく1枚でもあると思うんですよ。いわゆる“アンジーらしさ”を求めてくれていた人からしたら、全然違う表現になるので。
 
──舗装されていない道を突き進んだ作品ですよね。
 
ailly:「それをしてでも、私はこれをやらなきゃいけない」という気持ちになってるし、ここで振り切れなかったら、二度と自分の歌を歌うことはないだろうなって。それぐらい本気で向き合った1枚。だから、この作品は“私”という人間が強く出ているんですよね。歌詞を見ると、嫌われたくもないし、好かれたくもない位置で物事を言ってる。「ほっといてほしいけど、ほっといてほしくないんだよ」みたいな面倒くささも、ちゃんと歌詞で表現されていて(笑)。私は「何事もハッキリ言います」みたいに思われるけど、この作品でより自分のことを愛せたんですよね。この曖昧さが音楽になると愛おしいし、私と同じような一面を持ち合わせてる人の背中もさすれるEPになりました。
 
──1曲目は快活なロックンロールの「噺々-2026ver-」で幕が明けますね。
 
ailly:aillyの楽曲を手掛けてくれているのが、ぴーちゃんこと加藤綾太さん。夜遅くにぴーちゃんから、ポンと楽曲が送られてきまして。仕事から帰ってきて、布団で寝転がってる時にデモを聴いていたところ──その日の私はうまくいかないことがあったんでしょうね。「全部やめてやろうかな!」「イライラすんな!」と思いながら、歌詞を書き始めたんです。出だしの「あぁ、もう死んでやる!って/振り切るほどヤケになる」というフレーズは、感情のまま殴り書きしたメモを、そのまま歌詞に落とし込んでいて。でも、すぐには歌詞を提出しなかったんですよ。だいぶ乱暴なことをいっぱい書いたし、感情のままに書いちゃったので時間を置こうと。それで一夜明けて冷静になって歌詞を見返した時に、「これはこれでいいな」と思ったんです。これぐらい熱くなって仕事と生活をしてる自分はかっこいいな、と思えたんですよね。
 
──そうして怒りのフラストレーションを存分に注入したのが、「噺々」なんですね。
 
ailly:感情が溜まってワーってなると、私はすぐに岡本太郎さんの本を読むんですけど、自分の怒り方の癖を歌詞にして冷静に見た時に「あ、すごい人間っぽいな。これはこれでいいかもしれない」と思って。そこから歌詞がすぐ出来上がったんです。ぴーちゃんも「この歌詞は本当に面白い! 何があった?」と聞いてきてくれて「ちょっとムカついたことがあって、それを全部歌詞にしてみた!」と返したら、「それができるようになったのが嬉しい」って。それまでは「Radiory」の歌詞を書いた時は、どこかで綺麗に見せようとか、美しい言葉にしようと囚われていたんですよ。でも、「噺々」を作った時は自分の荒々しさとか、ラジオで話す“べらんめえ口調”とかが、全部バーンって出たので、私という人間が放出された1曲になったなって感じます。本当にただただ赤裸々に書きました。
 
──言葉を整理して歌詞を書くこともいいけど、この曲は感情のままに振り切って書いたのが素敵だと思いました。丁寧さを意識して「噺々」を書こうとしたら「あぁ、もう死んでやる!」の前に、なぜそう思ったのかを説明するだろうけど、それだとここまでのインパクトが生まれないんですよね。
 
ailly:そうなんです! 怒りの感情は説明しなきゃいけない、と思いがちだけど「死んでやる」とか「ふざけんなよ」って心の第一声じゃないですか。その鮮度を大事にしたかった。でも、2番でちょっと温度が変わるんですよね。5分ぐらい経つと、怒りって収まるじゃないですか? 「ちょっと言い過ぎたかもな」って。思い返すと「なんで、こんなに言われなきゃいけない」とイライラも残ってるけど、ちょっと自分に反省もする。そういう独り言のような歌詞を「噺々」に落とし込んだことで、自分の中では振り切って曲を書く力が身につきました。
 
──「噺々」は「怒ってもいい」という肯定がいいですよね。「怒りよりも許すことが大事だ」なんて言う人がいますけど、哲学者のアリストテレスは「怒りは悪い感情ではない」と説いています。そもそも怒りとか、様々な感情を抱いてこそ人間というかね。
 
ailly:うんうん、そうだと思います。
 
──この曲は怒った後で「言いすぎたな」「やり過ぎたな」と思うのもいい。「噺々」は約2分半の間に、人間らしさが詰まっていると思います。
 
ailly:めっちゃ嬉しいです! あと、落語の要素を入れたのも理由があって。噺の中に変な人がいっぱい登場するじゃないですか。
 
──間抜けな与太郎とかね。
 
ailly:そうそう! 与太郎って対誰かだけでなく、自分自身が与太郎になってる瞬間だって、誰しもあるわけで。そんな与太郎も愛嬌があるからこそ、滑稽に思えるし、他人の失敗を笑って肯定のために落語がある。落語も人生や人間を表しているから、「噺々」にリンクすると思っていて。誰かにとっては悪になる人も、誰かにとってはすごく大切な人かもしれない。それを「与太郎」に込めることで、言い過ぎない“粋さ”を表現したかったんです。あと、私は何をスタートするにもヘイトを言われることが多くて。Gacharic Spinに入った時も、「結成10周年のタイミングで、無名の女子高校生を加入させて何の意味があるんだ。早くステージから下ろせ」と言われたし、歌ってる最中も「こんなに下手な歌は聴きたくない」とも言われた。ラジオの仕事を始めた時だって、「なんで面白くない奴に喋らせるんだ」とか、何をスタートしても嫌な声を浴びながら、それを私は原動力に変えてきた。そういうことも「噺々」で歌いたかったんです。
 
──2曲目「EXP」は主人公と「君」の思い出を描いた、新しいアプローチの曲ですね。
 
ailly:これはyonigeの牛丸ありささんが作曲して、編曲をぴーちゃん、私が歌詞を担当しました。今までのアプローチとは全然違う感じで、yonigeを意識しながら書いたところがあります。
 
──牛丸さんを迎えたのは、どんな経緯があったんですか?
 
ailly:私は中高生ぐらいからライブに通うほど、yonigeのファンだったんです。丸ちゃんの影響で、学生時代から髪色をピンクにしていて(笑)。
 
──おお! aillyさんのトレードマークである髪色は、牛丸さんがきっかけだったんですね。
 
ailly:丸ちゃんはカルチャーの面でも音楽的な面でも、全部を真似したくなるアイコニックな人で、ずっと憧れの存在。2022年にGacharic Spinで対バンする機会があった時、打ち上げでお話ししたいと思っていたら、丸ちゃんだけ先に帰っちゃったんですよ。「うわ、話せなかった! もう会えることはないだろうな」と思っていたら、丸ちゃんからインスタのフォローが来て。「この前、めっちゃ話したかったです」と私がDMしたのを機に、一緒に遊ぶようになり、今もすごく仲良くさせてもらってて。もう2、3年の付き合いになるんですけど、aillyをスタートするちょっと前から、ソロプロジェクトの話をしていたんです。「ソロでyonigeと関わりたいし、一緒に曲作りをするのが私の目標なんだ」と話したら、「じゃあ、やろうよ!」と言ってくれて。
 
──そこで今作に繋がった。
 
ailly:日程を合わせて楽曲作りをすることになり、ぴーちゃん、私、丸ちゃんの3人でスタジオに入ったり、ぴーちゃんのお家に行かせてもらってみんなで楽曲作りをして生まれたのが、この「EXP」と3曲目の「ガールズトーク」ですね。
 
──楽曲制作はどのように進めていったんですか?
 
ailly:最初に3人で作った「ガールズトーク」がミドルバラード調の曲になったので、「次はもう少しアップテンポな楽曲を作りたいね」と言って、できたのが「EXP」でした。私はyonigeのオルタナ色が大好きなので「yonigeっぽいメロディの曲をやりたい」と話していて。この曲はyonigeっぽさもあれば、私が好きなUKやUSのロック──パラモア、ペール・ウェーヴス、ウィローのようなオルタナ感もある。それらの音楽をリファレンスにしながら、「このギターリフを踏襲してみよう」「でも、これだと似過ぎてるから、少しコード感を変えよう」とぴーちゃんがパズルのようにはめていって、そこに丸ちゃんが鼻歌でメロディを乗せて、セッション形式で曲が完成していきました。最初はポップなイメージだったんですけど、蓋を開けたらマニアックでストイックな演奏になって。音楽的にすごく楽しい楽曲になったな、って思います。
 
──歌詞はどんなことをイメージして書かれましたか?
 
ailly:恋愛の歌詞に見えますけど、それだけじゃないんです。当時、私自身が人間関係に悩んでいる時期だったので、恋愛の曲にも解釈できて、それ以外の大事な人との切っても切れない関係にも捉えられる内容にしたいと思って書きました。歌い出しが「消費期限切れたプリン」ですけど、未練で捨てられない感情とか、相手に「好き」とは言ってるけど、本当は嫌だったあの時の気持ちとか、頑張って周りに合わせていた自分とか……そういうことを全て歌詞に落とし込みたいなと思って。「どっちだよ!」みたいな、面倒くさい歌詞を書きたかったんですよね。yonigeの「アボカド」に「バイバイ」ってフレーズがあるんですけど、その曲にリスペクトを込めて「EXP」のサビも「バイバイ」を入れていて。私たちの関係性が見えると、より面白いと思います。
 
──好きな人との思い出に囚われている主人公が、終盤で「昨日とは変わった僕たち」と変化を見せる描写がありますよね。主人公は過去を本当に吹っ切れたんですか?
 
ailly:吹っ切れないと自分が傷つくな、ということですね。「嫌いと思えれば楽だったのにな」って、抗えない心情を描きたかったんです。でも、自分の性格的には嫌いって思えないから、ずるずる引きずってて。もう嫌いと思えないんだったら、2人は変わったんだと終止符を打って、美しいままの関係で終わらせたいという願い。でも、この主人公はずっと引きずると思います。非常に面倒くさい子です、この主人公は(笑)。
 
──完全に吹っ切るというよりは、吹っ切らざるを得ない感情ですよね。その絶妙なニュアンスが出ているところに、心惹かれました。しかも、この主人公が好きなのは“君”そのものではなくて、当時の君なんですよね。その独りよがりな感じも魅力的でした。
 
ailly:そうなんです。だから、あの時の匂いが残っている物を残していたり、思い出の写真を何度も見返してしまって、いつまでも前に進めない。でも進まざるを得なかったし、そうしないと自分が傷つくことも分かっていたから、理由をつけて嫌いになろうとした。これって、多くの人に思い当たるふしがあると思うんです。過去に縛られているままでは傷つくと分かっているけど、現状を変えられない。それは恋愛だけじゃなくて、職場や学校でもそうだと思う。他人のせいにできるわけでもなく、どっちつかずの自分が悪いだけなんだ、っていう。結局は平行線の話をしてるだけなんですけど、そういう曖昧な感情が私にもあるから。その面倒くささを、ちゃんと歌詞にしたいと思いました。
 
──3曲目「ガールズトーク」も、いわゆるシチュエーションを描いた楽曲ですね。
 
ailly:この曲は丸ちゃんに向けて書きたいと思ったんです。これも恋愛の歌詞に見えるんですけど、実際は女の子同士の友情を軸にしていて。丸ちゃんと過ごした場所と景色が、そのまま歌詞になっているので、丸ちゃんに見てもらうのは照れくさかったです(笑)。私は「牛丸ありさ」という人間に憧れがあるし、ライブハウスで見て「いつかこんなアーティストになりたい」と思って音楽活動をスタートした先で、丸ちゃんと楽曲を作ることができた。それもこれも、丸ちゃんがそばにいてくれたおかげ。そういう友達に対する、友情、愛、憧れの気持ちも詰め込みました。
 
──歌詞を読んで、牛丸さんは何か言ってました?
 
ailly:私の方から「言わないでくれ!」って言いました(笑)。
 
──ははは。当て書きをしたことは伝えたんですか?
 
ailly:ピンポイントでは言っていないですけど、メロディを作ってる時に「丸ちゃんに対しての想いを書いてみる!」と笑いながら伝えていて。きっと、丸ちゃんも歌詞を読んで「あぁ、なるほどね」と思いながら、あえて言わないでいてくれてて。
 
──なるほどね。
 
ailly:丸ちゃんは私がすごく救われた存在。丸ちゃん以外にも、そばにいてくれる数少ない人たちのおかげで、私は私でいられるんです。だからこそ、全部の思い出が大事なんですよね。
 
──この曲は加藤さんのギターソロもいいんですよね。
 
ailly:分かります! ちょっと渋さもあるんですよね。ぴーちゃんが「このメロには、こういうギターソロを入れたいな」と喋りながら弾いたのが、このギターソロなんですよ。ぴーちゃんは私のやりたいことを、口で説明せずとも全部汲み取ってくれるから、カッケー!なって思う。改めて、最高のミュージシャン2人と一緒に楽曲を作れて幸せでした。
 
──しかも、ドラムはyonigeのサポートメンバー・ホリエマムさんが叩いていて。
 
ailly そうなんですよ! ホリエさんはEP全曲のドラムを叩いてくれているんですけど、「この曲は特に、yonigeの音になってる!」と思って、めちゃくちゃ嬉しかったです。
 
──4曲目は今作のリード曲でもある「ダイナミクス」。こちらは高橋優さんの提供曲ですが、どのような経緯で生まれたんでしょう?
 
ailly:優さんとは、かれこれ4年ぐらいの付き合いになりまして。ラジオ番組でご一緒した時もそうですけど、優さんは私の言葉を丁寧に受け取ってくださるんです。何度もごはんに行ったり、飲みにも行ったりもしてて。とはいえしょっちゅう、会ってるわけでもないし、密にお仕事をしてるわけでもないけど、私が人生のターニングポイントに立った時に相談したいと思うのが、優さんなんです。優さんに連絡すると「じゃあ、何日にごはんへ行こう。そこで話を聞くよ」と言ってくれて、要所要所でバンドの話をしたり、自分のラジオの話をしたり。優さんから温かい言葉をたくさんもらって、何度も泣かされたほど、真摯に向き合ってお話をしてくださる方なんですよね。ソロプロジェクトを始める話が出た時も、真っ先に相談したのが優さんでした。「自分がどんな音楽をやりたいか」とか「どうしていったらいいのか」など、抱えている悩みを全部話して。
 
──それだけ信頼を置いているんですね。
 
ailly:傾聴力が凄まじいんですよ。しかも、優さんは悩みの答えを言うのではなくて、私に一通り話しをさせて「今、自分でどうするべきかを言ってたよ」と導いてくれるんです。
 
──素晴らしいですね!
 
ailly:そんな中で「aillyとして活動することになりました。話を聞いてくださってありがとうございました」と、報告をした後に「お願いがあって……優さんに1曲書いてほしいです」と食事の席で直談判したら「わかった、書くよ」と言ってくださって。後日、お互いのスタッフを交えた顔合わせの場を設けたら、既に1曲作ってくれていたんです。それは「ダイナミクス」とは別の曲だったんですけど、「アンジーの話を聞いて思ったことを書いてきた」って。そのスピード感と熱量に感動しましたね。そこから話を詰めていく中で、「じゃあ、これとは違うアプローチの曲も書いてみるよ」と送ってきてくれたのが「ダイナミクス」でした。
 
──曲を受け取った時、どんな気持ちになりました?
 
ailly:今まで私が優さんに話してたことが、そのまま歌詞になっていたんですよ。私がお話しした言葉一つ一つを優さんは全部受け止めてくださって、それを曲にしてくださったことに、もう涙が止まらなくなって。私はこの曲を美しく歌いたい、と思いました。「美しく」ってテクニカルなことじゃなくて、自分の言葉として歌いたいなって。最初は2人で歌詞を書く予定だったんですけど、「ダイナミクス」があまりにも自分の心とリンクをしていたので「このままの歌詞で行かせてください」ってお願いをして、レコーディングすることになりました。
 
──「ダイナミクス」は、このEPでaillyさんが訴えたいことの芯をまっすぐ捉えた曲に感じました。それこそ人間が出ているし、aillyさんの想いそのものというか。
 
ailly:そうなんですよ。仮歌の練習中も、あまりに言葉が胸に刺さって歌えなかったんです。自分が本当に言いたかったけど、言えなかったこと。それが「ダイナミクス」ですべて昇華されていた。優さんが大切に紡いでくれた歌詞を読むたびに、涙が溢れてきて。嗚咽しながら練習しましたね。
 
──レコーディングも感極まった?
 
ailly:はい。レコーディングの時も、感情が昂って涙を堪えながら歌いました。ブースで聴き返した時に「すみません、ここで変な感じになっちゃったんですけど……こみ上げてくるものがあって」と言ったら、優さんも「僕も歌を聴きながら涙が出そうになったんだよね」と言ってて。ディレクターも泣いてたし、みんなの心にこみ上げてくるモノがあった。「ダイナミクス」のレコーディングは、そういう奇跡の体験をさせてもらえて、お守りのような1曲になりました。
 
──「さぁ声に出して唄ってみろよ お前の身体がうずいてんだろ?/その足でここまでやってきたんだろ? 今を睨みつけろ」と力強く歌った後に、「…嘘、睨まなくてもいいから 空でも見上げてみよう」と優しい声色に変わる場面は、緩急が効いていて心揺さぶられました。
 
ailly:優さんに「これは多重人格ソングだと思って歌って」と言われまして。Aメロ、Bメロ、サビとそれぞれ違う感情で歌いました。衝撃だったのが、それまでは和気藹々と楽しく歌を録っていたところ、最後のテイクを歌う前に、優さんから「目の前に自殺しそうな人がいて、その人にかける最後の言葉が『ダイナミクス』の歌詞だったら、どうやって歌う?」と言われたんですよ。そこでバツンと心が入れ替わった。自分が学校に行けなかった時期に、優さんの歌声に救われて一歩踏み出せた経験もあったから「あの時に私を救ってくれた高橋優さんになりたい」と思いながら歌いましたね。
 
──「整ってなくても美しい人に心動かされていたい」「純粋じゃなくても美しい人の背中を追いかけていたい」のフレーズも胸が熱くなりました。歪な部分、そこも人間の美しさである。それは「ダイナミクス」に至るまでの3曲で、aillyさんが歌っていたことでもある。
 
ailly:「整ってなくても美しい人に心動かされていたい」は、私が人に対して思ってる感情でもあるけど、優さんから見た私もそうなのかなって。前に、優さんがぽろっと「アンジーはその歪な感じがすごくいい。人間を見てる感じがするよ」と言ってくれたことがあって。「整ってなくたって、荒削りだって、アンジーのがむしゃらさは美しい。それって最強なんだよ」って。優さんが私にくれた言葉を、曲を聴いてくれた人たちにも、aillyの曲として伝えることが「ダイナミクス」を最大限に生かすことだと思いました。本当に何度も歌詞を読み込んで、一番体に入れた歌かもしれないですね。
 
──5曲目はソロデビュー曲「Radiory」です。リリースをされてから、新たに生まれた解釈や発見はありますか?
 
ailly:この楽曲は自分が思ってる以上に、たくさんのラジオリスナーさんに届いていて。今や、私以上に「Radiory」に思い入れを持っている方が大勢いるんですよね。「毎朝この曲を聴いて登校してます」「この曲を聴いて仕事を始めるのが日課です」と、みんながこの曲を育ててくれている。それって、作り手としては一番幸せなことなんですよ。
 
──リリース時にインタビューをした際、「歌っているのはaillyさんだけど、それと同時にリスナーの声が聴こえてくる楽曲ですね」とお伝えしましたよね。こうしてEPを通して聴くと、他5曲に登場する主人公たちを繋ぐ1曲にも感じました。
 
ailly:本当にそうかもしれない。他の楽曲は1対1で、目の前の人に歌っているニュアンスが強いですけど、「Radiory」はラジオの電波で繋がっている不特定多数感があるんですよね。このCDに「Radiory」が入ることで、世界がより広くなってる。何より、この1曲はaillyを形作るにあたって、絶対に欠かせないもの。それを収録できて本当に良かったと思いますし、それ以外の5曲では全然違うアプローチに変わっていくので、そういう変化の変遷も楽しめますよね。
 
──拡大解釈ですけど、「噺々」「EXP」「ガールズトーク」「ダイナミクス」とそれぞれ違う主人公たちが、それぞれ違う場所で、aillyさんのラジオ「Radiory」を聴いている。そんな画が浮かびました。
 
ailly:確かに、それぞれの主人公たちが「あとは、ここで話して消化しよう」という解釈もできますね。いろんな人生がある中で、「Radiory」はみんなが集合できる場所であり、様々な人の人生が集約される曲になってる。その感想はすごい嬉しい! 別のインタビューでも借ります(笑)。
 
──ふふふ。そして、最後を飾るのは「つぎはぎ」です。これもまた、サウンドや歌詞も含めて毛色が違う曲ですね。
 
ailly:この曲はコンペをして、数ある応募の中から選ばせていただきました。最初に「卒業」をテーマに私が歌詞を書いて、「これにメロディをつけてください」という形で曲を募ったんです。すごい数の応募があって、最後まで悩んで悩んで最終的に、小野凪さんという大学生の子の楽曲を選ばせてもらいました。20歳前後とかなり若いのに、幅広い音楽を通っているのが伝わってきたし、何より「すごく音楽が好きなんだろうな」と感じるメロディを乗せてくれてて。あまりにメロディが良すぎて、歌詞を大幅に書き直したんですよ。「卒業」って聞くと学校生活のことがメインになるけど、大切な人間関係を終わらせるのも卒業だし、元いる場所から離れることも卒業。卒業の意味って一つだけじゃないよな、と思ったんですよね。ラジオを聴いてる時、お便りを読んでいる時も、いろんな人たちが出会いや別れとか、新しい環境に踏み出しているのを感じる。広い意味での「卒業」を丁寧かつ、大切に書きたいと思って楽曲を作りました。
 
──「つぎはぎ」というタイトルの意味は?
 
ailly:「つぎはぎ」って、ちょっと汚くも見えるじゃないですか。どこか歪というか。
 
──布だったら、色も素材も違ってあべこべに見えますよね。
 
ailly:そもそも“出会いと別れ”って過去・現在・未来を繋ぐものだと思うんですよね。つぎはぎを人生に照らし合わせた時に、それぞれの人が人生の中で経験する「1つのエピソード」「1つの出会い」「1つの別れ」が組み合わさって、1人の人間ができるよなって。現状の自分に対して「よくなかった人生」に思ったとしても、これまでとこれからを繋ぎ合わせた先に、“あなた”という存在が構築されていく。つぎはぎは歪にも見えるけど、繋げた先であなたがいるし、私はあなたと出会えた。だからこそ、これまでの選択を大切にしたいと思うし、あなたが選んだものだったら何でも愛おしいよって。今、別れが訪れてしまって、つぎはぎがほつれてしまっても「また必ず出会えますように」「もう1回、繋ぎ合わせられますように」と思って書きました。
 
──「つぎはぎ」を最後の曲に置くことで、作品との別れにもなるし、この先でまた出会う約束の歌にもなっていますね。
 
ailly:そうですね。いろんなこと歌っているけど、最後は総括して「また、あなたに会える」というのが、私にとってすごく大切だなって。別に約束をしなくても、私たちがここに存在すること、あなたが生きてることが約束の形になる。たとえ、あなたという人間が目の前からいなくなっても、この声とこの音楽があれば、きっと会えるから。「つぎはぎ」を最後に配置することで、EPが締まった感じがしますね。
 
──EP『ailly』をお聴きして、「人間の業の肯定」を表す作品に思いました。「噺々」の怒り、「EXP」の過去に囚われてしまう心情、「ガールズトーク」のノスタルジー、「ダイナミクス」の人間の歪さ、「Radiory」の他者との繋がりを求めること、「つぎはぎ」の卒業する侘しさ……など、それら人間が持つ晴れない心を「いいんだよ、それが人間だよ」と肯定している。
 
ailly:私自身が、そういうことを抱えている人間なんですよね。裕福な家庭に生まれたわけでもないし、学生時代に暗いこともたくさん経験してきた。そんな自分を表現した先に音楽があって、ラジオがあった。活動していて思うのは、自分が違う生き方をしていたら、絶対にこういう言葉を紡いでいないよなって。自分の歪さを頑張って繋ぎ合わせて、今の私ができてる。綺麗に整っていないけど、美しくはないかもしれないけど、これが自分だなって気づいたんですよね。
 
──どういうことでしょう?
 
ailly:『ailly』の6曲を聴き返した時に、私は美しい人間でもかっこいい人間でもないからこそ、それを歌うことが今の自分を救うことにもなった。これまで虚勢を張っていた部分とか、美しく見せようと思っていた部分を、いい意味で取っ払うことができた。泥臭いかもしれないけど「これがaillyという人間なんだ」ってことが、ちゃんと表せたEPになったなと思います。
 
──大きな質問ですけど、aillyさんから見て人間はどう見えています? 
 
ailly:幸せな生き物だな、と思いたいです。だって「幸せだ」と思って受け止めることできるのも人間の強さ。反対に「寂しい」「悲しい」「辛い」という感情を一番感じられる生き物でもあるけど、その感性があるからこそ、みんなが幸せにフォーカスを当てて生きていくわけじゃないですか。だから、私は幸せな生き物だと思いたいし、幸せな生き物でありたいと思ってます。
 
──aillyさんは学生時代に不登校になったり、周囲からキツい言葉も浴びせられたりして、人間の脆さや愚かさもたくさん感じてきたと思うんですよ。それでも今、幸せに目を向けられているのはどうして?
 
ailly:早くに父が亡くなったこともあるし、お母さんは海外の血が入っているので、すごく歪な関係性になったこともあれば、周りのことで悲しい経験もしたけど……でも、私はすべてのことに対して嫌いになりきれない。心ない言葉を言われても、その人のことを気にしてしまう。「なんで、この人はここまで心ない言葉を言えてしまうんだろう?」と気にしてしまうのは、私の中で少なからず情があるんだなって。それは何に対してもそうなんですよ。それで辛い思いもしたけど、この感情があるからこそ、私は人を愛する力がすごくあると思うし、人に愛される力もめっちゃあると思う。何より、負の感情が私の中で大きな力になってる部分もあるし、糧になってる部分もある。基本的にアンジーの原動力は怒りなんですよ。でも、結局はその先の幸せをいつも考えてる。
 
──そこが逞しいですよね。
 
ailly:しんどい渦中にいることよりも「ゴールした先にいる自分を考えたら幸せになるから頑張ろう」って。私の中では人間ってそういう生き物だなって思うし、そうでありたいんですよね。
 
──ちなみに、爆笑問題の太田光さんがテレビでバーっと前に出て行って、破天荒な振る舞いをされる時があるじゃないですか。それについて太田さんは「俺の頭の中には、1人のくたびれたサラリーマンを笑わせるっていう、それが俺たちの役割だっていうのがあって」「会社から帰ってきて疲れたサラリーマンがテレビをつけて『太田がまたバカやってる。俺のほうがマシだわ』と思う。そういう役割で十分だと思ってるの」と言っていて。その生き様は、本当にカッコいいと思うんですよね。自分を媒介に、人にどんな影響を与えるのかが表現者の命題だと思うんですけど、aillyさんは自身を通して、他者にどうなってほしいですか?
 
ailly:太田さんの姿勢には、すごく共感します。例えば、エスカレーターに乗ろうとしたら、後ろから割り込んできた人がいたとして。「会釈もしないで、なんだこいつは」と思っても「それは別に言わなくたっていい」「飲み込むことが上手(うわて)だ」と世の中は言うじゃないですか。でも、みんながそう思うから疲弊すると思うんですよ。「感情を出さない方が大人」みたいなことは、私はないと思っていて。だから私はでかい声で怒るし、「あいつは心が狭いな」と笑われてもいいから、私が公の場で話すことで、同じように思った人が「自分も同じことを感じた。そう思うことは悪ではなかったんだ」「でも、怒りを堪えた自分は上手だな」と思わせたら、私の勝ちなんです。だから歌詞の中でもめっちゃ怒るし、言い過ぎたことも言うし、めっちゃ笑うし、めっちゃ泣く。私と同じ感情になった人が、感情を塞ぎ込んでしまって言えないモヤモヤをアンジーがやることで「こいつがやってくれたから良かった」「アンジーがやってくれたから、自分は無理に解放しなくてもいいんだ」「解放したい時は、アンジーの所に行けばいいや」と感じてもらえたら、私の歌う意味がそこにあると思うんです。
 
──自分の言えないことを、aillyさんが代わりに消化してくれる。
 
ailly:そういう存在でありたいから、自分はどこまでもバカでいたいと思うし、どこまでも真っ直ぐでいたい。私、太田さんに言われた言葉があって──太田さんも立川談志師匠からいただいた言葉なんですけど「囃されたら踊れ」と。いつ何時、見てもらえなくなるか分からないから「今、この場で踊ってみろ」と言われたら、私は本気で、バカにされても踊ろうと思います。「それが表現者のできる、一番かっこいいやり方だ」と言われたので、常に感情を振り切って、100%で喋るし歌っていきたい。それが私の役割ですね。
 
interview&text
真貝聡